千葉大学 卓越大学院プログラム
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養成のための臨床人文学教育プログラム

これまでの成果
Our Progress

対談

片山 ゆき

片山 ゆき(ニッセイ基礎研究所主任研究員)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

私たちの卓越大学院プログラムでは、企業人のみなさまにも様々なかたちでご協力をいただいています。
今回インビューを受けてくださったニッセイ基礎研究所主任研究員、片山ゆきさんは、卓越大学院プログラムの企業メンターとして、インターンシップやキャリア相談会などをお願いしてきました。
また、片山さんはニッセイ基礎研究所の専門業務の傍ら、博士後期課程に籍を置きながら、現代中国の社会保障について研究を進めて学位を取得、2024年9月に、その研究を基礎とする著書『十四億人の安寧─デジタル国家中国の社会保障戦略』(慶應義塾大学出版会)を上梓されています。
今回は、ニッセイ基礎研究所の片山さんに、ご自身のお仕事や大学院生へのアドバイスなどについてお聞きしました。

十四億人の安寧─デジタル国家中国の社会保障戦略

まずは企業研究所研究員としてのお仕事の内容を教えてください。

片山さん(以下、敬称略):私自身は、日本生命という保険会社の傘下にあるシンクタンクで仕事をしています。仕事の内容は、日本生命本社の要請に応えるための調査研究業務と、外部機関に向けた調査研究業務とが、おおむね半々ぐらいでしょうか。日本生命は中国に現地法人がありますが、そこで保険を販売していくに当たっては、いくつか現地の前提的条件を調査しておかなければなりません。たとえば人口動態はどうなっているのか、現状として社会保障はどのような制度になっているのか、ということがわからなければ、どういった保険を作って販売すべきがわかりませんから。そのほかにも、中国における中国の保険会社や、諸外国の保険会社などの動向も調査対象になります。
国内向けには、保険会社としてのプレゼンスの向上に資するために、さまざまなかたちで情報発信をしています。たとえば会社のウェブサイトでレポートを発表したり、あるいは官庁や経済団体、その他の研究団体等が主催する現代中国関連の会議や委員会等で講演したり、あるいは書籍出版やメディアへの出演やコメント発表など、情報発信の形態は多岐にわたっています。

ありがとうございます。このお話は大学院生向けのキャリア懇談会でもしていただきましたが、大学院生たちにも企業研究所の業務がよく理解できたのではないかと思います。ところで片山さんは、企業研究所での調査研究の傍ら、社会人院生として博士後期課程において中国の社会保障制度を研究し、学位を取得されていますね。企業研究所の研究業務と大学院博士後期課程の研究活動をともに経験されたお立場から、二つの異同を教えてください。

片山:そうですね。たとえば業務の一環として会社のウェブサイトにレポートを書いて情報発信を行う場合、その内容は読者の関心を惹きやすく、かつコンパクトで明快にまとめることが求められます。それに対して学術研究の成果をアウトプットする場合には、問題設定を明確にした上で、それをデータ、資料に基づいて徹底的に掘り下げていくことが必要になります。
ただ、自分自身の経験に照らしても、その二つは決して相容れない別物ではないですね。私は少なくとも、会社の業務としての調査研究を行うことで、社会が何を求めているのかを常に意識することができましたし、それを自身の研究テーマの設定に反映させていくことができました。一方、大学院で学術的なリサーチの手法を深く学ぶことは、確実に業務における能力の向上にも結びついています。その意味で、じつは企業研究所の研究業務と、大学院における研究活動の間には、良い循環が生まれる可能性が大きいと、個人的には感じています。自分自身の仕事と、学術的な研究手法とをどう結びつけていくかということは、自分自身のストラテジーに関わる問題で、学術研究は業務にとって大いに役に立つのです。

片山さんにはこの卓越大学院プログラムにおいてプログラム担当者、企業メンターも務めていただいていますが、大学院生のキャリアに対してアドバイスをお願いできますか。

片山:ありきたりかもしれませんが、まずはたくさんのモノを見て、たくさんの経験を積みながら、必要を感じた時により高いレベルの学びに立ち戻っていけばいいと思っています。ですから、卓越大学院プログラムのインタビューでこんなことを言うのはどうなのか(笑)とも思うのですが、たとえば学部を卒業して就職する、修士を修了して就職する、そして社会や企業で専門の知識や技術を蓄積する、ということがあったとしてもよいと思います。それを踏まえてまた大学院の博士後期課程に入って、自身が獲得してきた社会的な関心と、学術的な研究手法とを統合していくことができればいいと思います。必要だと感じた時に大学院で学ぶことは、きっと役に立ちます。

ありがとうございます。企業人の方に大学院博士後期課程教育の有用性を説いていただくのは、私たちにとっても大変励みになります。では最後に、大学院教育へのリクエストがあればぜひお願いします。

片山:教育課程そのものにリクエストがあるというよりも、社会人が学びたいと思った時に学びに入ることができる環境づくりをお願いしたいと思います。具体的には、フルタイム勤務と並行できる柔軟な履修体制であるとか、企業研究所における調査研究実績を一定程度評価いただける入試体制とかでしょうか。

確かにこれからの大学院教育は、企業人を含む社会人に向けて開かれていなければなりませんね。本日はお忙しいところ、インタビューに答えていただきありがとうございました。そしてこれからも大学院生へのアドバイスなどでもお世話になりますが、どうかよろしくお願いいたします。